–イラン、イスファハン
文無しであることに気づいた僕は、一刻も早くトルコに抜けるためにタブリーズを目指す必要があった。ただ、シーラーズでのけいさんとの約束を果たせないことを、まだ伝えることができていない。予定ではけいさんたちも、この日の午後イスファハンに到着するはずだったが日が沈んでもその姿は現れなかった。さすがに自転車3人でのヒッチハイク、そうそう予定通りにはいかないのだろう。僕はあと一日だけ待ってみることにした。しかし所持金はギリギリだ。トルコまでのバス代以外、余分なお金は無い。仕方が無いので、バスターミナルで一晩過ごすことにした。
夜も更け、誰もいないだだっ広い待合室で「吾輩は猫である」「マークスの山」をめくる。デリーの古本屋で買ってから、何度読み返したかも知れないこの2冊は、確かに他の本に比べて読み返しがいのある本だった。しかしさすがに、眠くなってくる。あいにくこの待合室の椅子は横になれるようなつくりになっていない。仕方がない、外で横になれるところを探そう…とパックをかつぐ。
ターミナルのベンチで横になって眠る、と、いきなり声をかけられた。見ると、同い年くらいの(イラン人の年齢はよく分からないけど)青年が3人立っていた。しかし当然ペルシャ語なので、なに言ってるか不明。どうやら「ここで寝るな」と言っているようだ。身振り手振りや、わずかな単語から察すると、
「宿は無いのか」
「俺たちはここで働いてる」(倉庫番かなにからしい、宿直だろうか?)
「チャイニーズか、いやジャパニーズか」
「カンフー!ホァチャー!(それはチャイナだ)」
「俺ニンジャソード持ってるぜ」
とか言ってニンジャソード持ってくる3人。えええ。なんで職場にそんなもん持ってきてんだこいつら。するとこちらに渡してきた。つくりは粗く、ずっしりと重い。でも刃はついてないようだ。レプリカみたいなもんか。
そして期待に満ちた目で忍者剣技を期待しているっぽい。勘弁してくれ。昔剣道かじった記憶を思い出して何度か振って返すと、どうやら満足してくれたらしい。
相変わらず言葉は通じないけど、フレンドリーな雰囲気に。でもさすがに深夜に3対1は怖えーよってことで人の多い駅前ロータリーに移動。
駅前のロータリーは車道や駐車場の間に芝が植えてあって、石畳よりは寝やすそうだ、と思ってよく見ると、そこかしこに転がる死体…ではなくて、同じようにバス待ちで夜明かしをする人たち(現地人)がいた。なんだ、全然野宿していいんじゃんとか思いつつ眠る。
起きたら朝露でじっとり濡れていた。
よし、今日中にはトルコに抜けるぞ!というか、抜けないとやばい。